前代未聞




張り詰めた空気が、その部屋を支配していた。






…トクン…トクン…。

胸の鼓動が、自分でもはっきりと聞き取れる。






緊張している。






その事実を理解しつつも、身体の震えは止まらない。






……まったく。相変わらずノミの心臓だなコレ。

苦笑を噛み殺しつつ、私はその時を待っていた。









冬季大学院入学試験開始20分前。


それが私の置かれている状況だった。





これに落ちたら、もう後がない。

そう思うだけで、心臓がまるで荒縄に縛られた様な痛みを発する。





この教室の席に座っている連中は、皆私と同じ、「後がない」状態である。




部屋の空気が緊張感で満たされるのも、無理からぬ話であろう。















……そんな中。

沈黙に耐えられなくなったのか、はたまた単に緊張を感じていないのか。



後ろの席に座っている受験生二人が、会話を始めた。



受験生A「今日さー、家出るとき受験票忘れちゃって。 慌てて取りに戻ったよ。」

受験生B「うわ。ベタなミスだけど結構痛いよなーそれ。」

受験生A「ああ。マジで焦ったよ。」






……。




ふっ。


受験生Aよ。




貴様はまだまだヌルイぞ!!

会話を聞いていた私は、心の底で思わずそう叫んでしまった。





























20分前。




私は受験会場である自分の大学のいつもの情報棟に到着した。



事務室窓口で受験の受付けをする。



そこで事件は起ったのだ。



bane「すみません。 院試の受付けお願いしたいんですけど。」


受付係「はい。それでは受験票を見せてください。」


bane「……。」


受付係「……。」








bane「……そんなの配られましたっけ?」


受付係「……ええっ!?」








……。








前代未聞。

受験日当日まで受験票の「存在」を忘れていた男bane!!











いやーこれは焦った。


このあとダッシュで学務係に駆け込み、なんとか受験票交付してもらえたから よっかたものの。


受験票貰い忘れて受験失敗じゃシャレにもならん。





……バカもここに極まりけり。


























そーいえば中学のときは教科書類を入れた 「学生カバン」を忘れて学校行ったことあったな自分。

手ぶらなんだからさすがに気付けよ!


……バカモココニキワマリケリ。